研究概要 |
本研究は,複雑液体の一つである液晶を取り上げ,構成する要素が形状の異方性を持つという特徴だけで多体系の効果により,どこまで複雑な液晶を発現しうるかを明らかにすることを目的としている。モデルとしては,斥力ポテンシャルによって記述される並進および回転の自由度をもつ冠球円柱粒子系を用い,圧力一定の分子動力学シミュレーションを行った。ここでは,静水圧状態を実現するために筆者らが提案した手法を用い,高密度領域から低密度領域まで系統的にシミュレーションすることにより,結晶相-スメクテイック液晶相(Sm相)-ネマティック液晶相(N相)-等方性液体相間の一連の相転移を考察することができた。考察した物理量としては,体積やエンタルピーなどのマクロな物理量に加え,ミクロな構造解析,配向秩序パラメータ,平均分子軸方向および垂直方向の拡散定数などがあげられる。 液晶相の一つの特徴として異方的な拡散があげられるが,我々のモデルではSm相,N相の両方において平均分子軸方向の拡散が垂直方向の拡散に比べて大きい。これは,並進の自由度のみを考慮したモデル粒子系においてSm相における拡散が平均分子軸方向より垂直方向に多く拡散するのと対照的である。現実のSm液晶相では,この二通りの異方的拡散が観測されており,その拡散の仕方によって回転の自由度の束縛の度合いを予測することができるかもしれない。 今後,液晶相の構造およびダイナミックス,液晶相転移のメカニズムに関する詳細な考察を行っていきたい。
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