研究概要 |
高分子の結晶化機構を分子レベルで解明するために、我々は500個のセグメントから成る一本の高分子鎖の分子動力学(MD)シミュレーションを行った。鎖状高分子のモデルとして、最も単純な内部構造を持つポリメチレン鎖を用い、分子力場として、DREIDINGポテンシャルを使った。初期配置として、全てトランスの平面ジグザグ構造から出発し、先ず高温(T=800K)でランダムな配位を作り、次にそれを段階的にT=100Kまで冷却した。シミュレーションで得られたデータの可視化をグラフィック・ワークステーション上で行い、また、慣性半径やボンド配向秩序パラメータ等の時間変化、温度変化を調べることによって、以下の新しい知見を得ることが出来た。 1.高温でランダム・コイル状態にある高分子鎖を、段階的に冷却することによって、配向秩序構造が形成される。 2.T=550K以下の温度で、配向秩序が成長する。また,配向秩序構造の形成過程において、高分子鎖の異方性も成長する。 3.得られた配向秩序構造において、ステムの数は16本であり、各ステムは14か15個のセグメントから成る。また、ステムは歪んだ六回対称性を有している。 4.配向秩序構造において、ゴ-シュ状態は折り畳み面に偏っている。また、ステム内に比べて折り畳み面内では、二面角は変化しやすい。 今後は、構造形成過程における分子運動及びコンフォメーション運動の解析を行う。また、本研究では考慮していない鎖間相互作用が、配向秩序構造の形成にどのような影響を及ぼすのかを調べるため、現在多数本の高分子鎖のMDシミュレーションを行なっている。
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