研究概要 |
強相関一次元電子系のモデル物質として注目されているハロゲン架橋Ni錯体 ([Ni (chxn)_2X]Y_2 : X=Cl, Br)において、カウンターイオン(Y)が異なる種々の錯体(Y=NO_3, ClO_4, BF_4)を新たに合成し、Niスピンによる磁性を単結晶における磁化と帯磁率の温度変化の測定によって調べた。その結果、この錯体の磁性が、典型的な一次元ハイゼンベルグスピン系として理解できること、およびNiスピン間の相互作用が1200Kから1800Kときわめて大きいことを明らかにした。また、同じNi錯体で、偏光反射スペクトルおよびX線光電子分光の測定から、電子構造を支配する物理的パラメーター(クローン反発U、トランスファーエネルギーt、電荷移動エネルギーΔ)を評価した。見積もられたパラメーターの値は、U〜5eV, t〜2eV, Δ〜0.64eV (X=Br), and Δ〜1.2eV (X=Cl)である。 (H.Okamoto et al. , Phys. Rev. B54, 8438 (1996). ) このNi錯体系では、キャリアとスピンとの相互作用の機構を解明することが、その伝導物性を考察する上で重要である。そのために、光励起によってキャリアを注入し、その光キャリアに固有の吸収(光誘励起吸収)を系統的に測定した。その結果、Niのdバンドに生じる電子キャリアは、強いポーラロン効果によって局在することがわかった。また、ハロゲンのpバンドに生じる正孔キャリアは、周囲のNiスピンとの強い相互作用の結果一重項状態を形成し局在することが明らかとなった。正孔のスピンとNiスピンとの間に働く相互作用(近藤カップリング)は、約1eVと見積もられた。
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