窒化タングステン(WxN)と過酸化水素水との反応により合成されるポリ酸は水溶性を示すので、水溶液を用いた湿式塗布法(回転塗布)による薄膜化が可能である。この薄膜は、膜厚3000〜6000Åの範囲にわたって亀裂がなく良好な膜であった。このポリ酸の導電率は、25℃、相対湿度40%で、1.42x10^<-4>Scm^<-1>であった。80℃あるいは120℃で熱処理すると、導電率(25℃、相対湿度40%)は、それぞれ1.04x10^<-5>Scm^<-1>、3.08x10^<-7>Scm^<-1>と低下した。しかしながら、その低下の度合いは、金属タングステンから得られる薄膜が80℃あるいは120℃の熱処理で、導電率が測定困難となるまで低下するのとは大きく異なっていた。 次に、ポリ酸のキャラクタリゼーションを行った。^<14>N NMRスペクトル中には、21ppmおよび378ppm付近にそれぞれNH_4^+、NO_3^-に帰属されるシグナルが、強度比1.8:1.0で得られた。同様なアンドがIRでも確認された。したがって、窒化タングステン(WxN)と過酸化水素水との反応により合成されるポリ酸にはNH_4^+、NO_3^-が含まれていることがわかった。一方、金属タングステンから得られるポリ酸には、このようなイオンは含まれていない。したがって、窒化タングステンと金属タングステンから調製したポリ酸の導電特性のちがいは、NH_4^+、NO_3^-の存在と関係しているものと推定される。 金属タングステン、炭化タングステン、窒化タングステンと過酸化水素との反応生成物のTOF Massスペクトルには、m/e=2000-4000の間ではm/e=2853±2にWが12集まった酸化物クラスター、例えばH_7W_<12>O_<40>^-に帰属されると考えられる強いシグナルが得られた。したがって、これらの化合物と過酸化水素とが反応して得られるタングステンのイソポリアニオンの骨格構造は同じであると推定される。同様な結果が^<183>WのNMRからも得られた。
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