研究概要 |
いわゆる安定化ジルコニアはイットリアなどの固溶により酸素空孔が生じ,高いイオン伝導性を示す.固溶量を増すと空孔数も増加することになり,イオン伝導率が向上するが,ある固溶量で極大となりそれ以上では逆に減少する.本研究では格子欠陥(空孔)を含む系の格子振動状態に着目し,熱力学的立場からイオンダイナミクスとの相関を明らかにすることを目的とした.8,10,11mol%イットリア安定化ジルコニアについて,14〜300Kの温度範囲で熱容量測定を行い,14Kおよび室温で中性子非弾性散乱実験を行った.その結果熱容量測定では,極低温域に過剰な熱容量を見出した.これは純粋なジルコニアには見られず,格子欠陥による低励起モードから生じているものと考えられた.さらに中性子非弾性散乱実験による状態密度の結果,約16meVの位置に分散の小さいピークが見られた.そこで測定した熱容量に,格子振動数分布を仮定したモデルを非線形最小自乗法によりフィッティングして状態密度を求め,格子振動と熱容量との対応を調べた.その結果,低励起モードに対応する位置にピークが見られ,中性子にる測定結果と良く一致した.この計算を8及び10mol%イットリア安定化ジルコニアに適用して比較したところ,低励起モードのピーク位置は変わらず状態数に変化が見られ,これがイオン伝導性の変化と対応するものと考えられた.さらに添加元素依存性を調べる目的で,スカンジア及びセリア安定化ジルコニアにも研究を拡張した.スカンジア及びセリア系でもイットリア系と同様に過剰熱容量が見られ,低励起モードが添加元素依存性および構造依存性を持つことがわかった.
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