研究概要 |
溶液中では,アルコール分子が水素結合を介して会合体を形成するが,我々は誘電率スペクトルからの検討を試みた.本年度は,誘電率スペクトル測定装置の作成と低圧領域での測定データの測定した.測定は,メタノール,エタノール,プロパノールと水の2成分系を対象として,297-363Kの範囲で,まず大気圧下で行った.装置は,現有のネットワークアナサイザーに購入したFFTアナライザーを組み合わせて作製した.測定セル全体を空気恒温槽に収納することで温度保持を図った.測定値としては,静的誘電率ε(∞)と複素誘電率(ε', ε")が得られる.ε(∞)についての過剰誘電率を算出すると,すべての系で負の値となり,混合系での水素結合が破壊され,構造性が弱められていることが示唆された.複素誘電率(ε', ε")について検討すると,周波数を増大させるとε'はある周波数から急激な減少を示し,ε"の増大が観測される.さらに周波数を増大させるとε"は極大値を経て減少する.この極大を与える周波数に着目すると純メタノールでは2.86GHzでこれは55.6psに相当した.時定数の正確な決定はCole-Coleプロットに従ったが,時定数は水分率の増大とともに連続的に減少し,純水では9.3psと非常に早いことがわかった.なお,水分率が0.2以下では,時定数の組成依存性が小さく,水分子がメタノールが水素結合で形成するネットワークの空隙に入り込み,溶液構造に大きな変化を誘起しない,一方高水分率では時定数の組成依存性は大きく,水溶液構造が微少量のメタノールにより多大な影響を受けることが示唆された. 高圧域での測定では,高圧用に作成した測定セルからのリ-クあるいは測定信号とから誘電率への変換の問題が明らかになり,現在その調整を行っている.
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