研究概要 |
内径約11Åの細孔が単純立方構造で配列したカリウムタイプのゼオライトK-LTAにカリウムを吸蔵させた系では,ゼオライト自身のもつカリウムイオンと吸蔵させたカリウム原子とがいっしょになり,カチオニッククラスターが細孔内に安定化される.そして,クラスターの4s電子(以下s電子)が様々な磁気的・光学的性質を示す.この系では細孔当たり(クラスター当たり)平均5個程度のs電子を含むと最も顕著な強磁性が低温で観測されることを既に報告した.強磁性の発現機構については,当初,遍歴電子の弱い強磁性モデルで説明してきたが,いくつか奇妙な点があり,それを解明することが本研究の重要な目的のひとつである.まず,磁気測定に関しては,より高磁場での磁化の測定を行い,更に,より高い温度域での磁化率の測定を行った.また,より低いエネルギーの光学スペクトルを測定した.その結果,従来の遍歴電子による弱い強磁性のモデルでは説明できない結果が得られ,当初の予想を超えた新しいモデルを考える必要があることがわかってきた. 現段階での解釈として,実験結果とあわせて以下のように考えた.まず,この系は従来考えられていた様な金属的な系ではなく,絶縁体またはそれに近い系であることがわかった.更に,高温域の磁化率の測定結果から,クラスターの磁気モーメントは互いに反強磁性的に相互作用していることが示された.また,Curie定数からは2μ_B程度のかなり大きな局在磁気モーメントの存在が明らかにされた.この値は高磁場での磁化から求めた値の10倍程度の大きなものであった.そこで,局在磁気モーメント間の反強磁性的相互作用と強磁性の共存する磁性としてフェリ磁性を考えた. 次は,なぜこの様な系が安定化されるのかという点が問題となる.種々の実験結果から,電荷密度波とスピン密度波が共存していることが推測される.この他,ゼオライトFAU中の系についても研究を行った.
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