研究概要 |
液滴を微小蛍光セルとして利用する発光スペクトル観測法を飽和溶液に適用し,飽和微小液滴からの溶媒脱離により微小固体(固体クラスター)が容易に生成することを見出すと同時に,レーザ励起蛍光分光スペクトルの解析から,固体中での電子励起および基底状態のポテンシャル形状を初めて決定した。 市販の加湿器の超音波振動子を利用して,アントラセンのエタノール飽和溶液の微小液滴を発生させ,Nd^<3+>:YAGレーザからの第3高調波(355nm)を照射し,生じる発光を分光器および光電子増倍管で検出した。室温(297K)において,アントラセン/エタノール飽和溶液の微小液滴の発光スペクトルを観測した結果,通常の蛍光セルで観測される溶液の発光スペクトルとほぼ同一のスペクトルを得たが,飽和微小液滴周囲の温度をわずかに上昇(9℃)させて溶媒脱離を起こすと,スペクトルピークおよび強度分布に大きな変化が生じた。この変化は,温度上昇にともなって徐々に起こるのではなく,ほぼ4℃の温度変化を境に共同現象的に突然現れる。観測したスペクトル変化を溶媒脱離にともなうアントラセン分子の電子励起および基底状態ポテンシャルの変化に関係付け,両ポテンシャル曲線をFranck-Condon解析によって決定した。その結果,固体中では基底状態のv_6(a_g)モードの振動量子エネルギーが255cm^<-1>減少し,電子励起状態との平衡核間距離の差が溶媒中よりも大きいことを明かにした。ポテンシャル形状に関して,1)励起・基底電子状態ともに調和振動子とする,2)発光スペクトルの振動構造に関与する振動を最も寄与の大きい一つのモード(v_6)に限定する,という仮定の下であるにもかかわらず,溶液から固体へ変化した際のスペクトルの振動構造の変化が正確に再現された。以上のように,飽和溶液からの溶媒脱離により,容易に微小固体(固体クラスター)を生成することが可能であり,固体中の電子状態の研究が可能であることを明らかにした。
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