本研究は少数多体系の反応ダイナミックスを統一的に扱える統計理論の構築を最終的な目的とし、本年度は以下の研究を行った。1)2次元量子ビリヤードでの境界要素法と内部固有値問題、外部散乱問題:2次元の量子ビリヤードでは、ディリクレ境界条件付きのヘルムホルツ方程式を境界上で定義される積分方程式に書き換え、それを離散化して得られる連立一次方程式の行列式の零点からエネルギー準位を求めるという方法、境界要素法が使われる。我々は、境界要素法に出てくる行列式D(E)(Eはエネルギー)とディリクレ内部固有値問題、ノイマン外部散乱問題の関係を調べ、D(E)が領域内部の寄与と領域外部の寄与の積で表され、ア)前者がエネルギーの関数として原点の分岐点を除いて解析的で、領域内部に束縛された粒子のエネルギー固有値E_nに零点を持つアダマ-ル型無限乗積表示を持ち、イ)Eが実のとき後者の対数は実軸上にカットを持つ解析関数の上半平面からの境界値で、ノイマン型境界条件の下での散乱の位相のずれの総和についてのコ-シ-積分で表され、その下半平面への解析接続が散乱共鳴で零点を持つことを示した。関西学院大学の首藤氏、ATR環境適応通信研究所の原山氏との共同研究。2)カーボン・ナノチューブの光学的性質:我々は、ナノチューブのキラリティに注目し、これが反映される物性として光学的性質を取り上げ、誘電率および旋光能の計算をTight-Bindingモデルに基づいて行った。誘電率の周波数依存性の計算結果は、安食、安藤のk・p-モデルに基づく計算結果と良く合い、プラズマ振動数の値はBommeliらによる最近の実験結果と同程度であった。キラルなナノチューブの旋光分散及び円二色性のスペクトルは周波数の関数として振動関数で、金属的チューブと半導体的チューブで定性的差はない。また、これらは観測可能であると考えられる。さらに、光学活性の強度はチューブ半径に反比例して減少する。これは直径を大きくしていくとナノチューブが光学活性のないグラファイトに近づくことによる。京都大学工学部の山邊氏との共同研究。
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