研究概要 |
研究代表者の見いだしたκ′-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3は,モット絶縁体へのキャリアード-ピングにより超伝導が実現された唯一の有機超伝導体である.この物質では,陰イオン層中のCuが1価-2価の混合原子価状態をとることにより伝導層に電子が供給されている.全ての銅が1価の場合,BEDT-TTFの二量体当り1個のホールが存在するモット絶縁体になっている.超伝導転移温度は,Cu2価の濃度の増加により急激に上昇し,430ppm以上で再び減少する.高濃度領域での転移温度の低下は,常磁性不純物であるCu^<2+>により超伝導電子対が破壊されるためであると考えられる.そこで,非磁性の2価金属イオンによる混晶の作成を試みたが,まだ良質な結晶を得るに至っていない. フィリング制御可能特性を持った新規有機-無機複合系として,θ-(BEDT-TTF)_2[Co(EDTA)]を得た.結晶構造解析は完了していないが,BEDT-TTF層の構造はほぼ定まった.空間群は斜方晶系I222で,BEDT-TTFはθ型と呼ばれる杉綾模様型の配列をとっている.同型のBEDT-TTF配列をとる錯体はほとんどがモット絶縁体ないしはモット境界近傍に位置する.従って,この物質もモット絶縁体である可能性が高い.陰イオン層のCo(EDTA)は強いディスオーダーが見られ,Co位置のみが定まっている. 分子性スピンラダー物質(BEDT-TTF)Zn(SCN)_3の静磁化率及びESR測定を行った.この物質はBEDT-TTF1分子当り1スピンを持ち,モット絶縁体になっている.磁化率の温度変化はスピンラダーに特徴的な挙動を示すが,スピンギャップの大きさが予想される値よりもかなり小さい.この原因については,鎖内/鎖間の相互作用の比や,対角線方向の反強磁性相互作用によるフラストレーションの存在などが考えられる.いずれの場合も,過去に例のない特異な系である.ESRのg値は温度によらずほぼ一定である.ESR線幅は室温で15Gで,1次元性に対応した小さな値になっている.高温により直線的に減少し,100K以下では1Gでほぼ一定となる.
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