研究概要 |
シリル基がβ位の炭素陽イオンを安定化することはよく知られており,有機ケイ素化合物の反応性を理解する上で重要な特性の一つである.ビニルシランはα位でプロトンと反応し,β-シリル炭素陽イオンを中間体として与える.通常β-シリル炭素陽イオンからのシリル基の脱離は非常に速いため,この中間体を求核剤との反応に利用した例はほとんど知られていない.本研究では,分子内の適当な位置に水酸基のような求核剤を有するビニルシランを用いたところ,固体酸触媒によって生じるβ-シリル炭素陽イオン中間体が水酸基と反応して,テトラヒドロフランやテトラヒドロピラン誘導体などの含酸素環状化合物を効率よく与えた.酸触媒にはまず市販品であるナトリウムモンモリロナイト(クニピア),活性白土,モンモリロナイトK10を用いて反応した結果,酸性度が低いナトリウムモンモリロナイトでは原料回収に終わったが,シリケート層間の交換性陽イオンがプロトンである活性白土やモンモリロナイトK10では環化反応が効率よく進行することがわかった.交換性陽イオンがアルミニウム,チタン,セリウム,亜鉛であるモンモリロナイトが,この反応において触媒活性を示した.これら触媒系において超音波照射下での反応も試みたが,触媒活性の向上には効果的ではなかった.次に,12-タングストリン酸,12-モリブドリン酸,12-タングストケイ酸のようなヘテロポリ酸を用いて反応を行ったところ,これらのプロトン酸触媒も本環化反応に対して高い触媒活性を有することが明らかとなった.なお,12-モリブドリン酸は溶媒であるクロロホルムに可溶であり,このために触媒活性が著しく向上したものと考えられる.
|