研究概要 |
本研究では,先天的に障害されていた感覚や運動を人工現実感技術によって新たに構成させる「新現実感(現在、障害児者の人工現実感:Alternative Realityと訳している)」成立の分析を試みている。この成立の機序とその促進要因が解明されるれば、障害ゆえの副次的な認知的障害を最小限にする新しい指導方法を確立することが可能となる。 本年度は、頭部伝達関数を使った3次元音源ボードであるCrystal Engineerin社のAlphatronを使って作成したゲーム型の教材システムを作成し、その有効性を確認した。学習プログラムは,二人一組のゲーム形式で利用されることを念頭に入れて構成した.音源に向かって移動することで音源を捕まえる役割(Chaser)と,これに対して,音源が捕獲者に捕まらないようにする役割(Escapee)である.Chaserは常に音源の方向について注意を払う必要があり,Escapeeは常に音の距離に注意をはらうことが要求される.ゲームとして役割を交換させることで,双方に要求される課題を交互に学習することになる.3名の先天盲児に適用した。学習セッションは,8日間の間に各自8回から9回,時間は一回につき5分間から最大で26分間(1回の平均が12分間)行われた.その結果、学習セッションのあとにおいて,目標値とのズレは有意に減少した(sign-rank-test,p<0.05).すなわち,音源を定位する精度が向上したことが示唆される.次に,データの散布度の指標として選んだ四分領域を比較した結果,S1において,有意(sign-test,P<0.05)であった.このように事前-事後テストの結果、音源の定位技能の水準に有意な上昇を確認するなど、人工現実感技術の障害児教育への応用の可能性について実証的なデータを得るに及んだ.
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