研究概要 |
本研究の目的は,柔軟物体を操作する人間の技量を,作業の実演を通して抽出し,それをロボットマニピュレータ上で実現することである.まず,ホ-スの挿入作業における人間の動作を計測し,それをマニピュレータに移殖し,状態遷移の認識則の適用に対する可能性を考察した.その結果,人間による作業と同様に,マニピュレータによる挿入作業においても,力差分のピーク値を観察することにより,接触状態から挿入状態への遷移が検知できることがわかった.また,初期位置に誤差がある場合に,ホ-スの挿入作業が成功するかどうかを調べた.人間の運動軌道の初期位置を原点として位置ずれを与え,ホ-スの挿入作業を実行させる.人間の運動のみを実行した場合と,運動と認識則を移殖した場合を比較すると,作業が成功する位置ずれの範囲は,後者の方が狭いという結果が得られた.すなわち,作業状態遷移の認識則をマニピュレータに移植することの有効性は,示されていない. 次に,著しく柔らかさ,変形しやすさが異なる物体を対象とする作業として,靴下を履く作業を取り上げ,靴下履き作業における人間の運動を実験的に分析した.特に,作業過程がどのような作業状態から成り立ち,状態の遷移をどのように認識するかについて考察した.その結果,靴下履き作業は,a)動作開始から靴下を足先に当てるまでの運動,b)靴下がかかとを越えるまでの運動,c)かかとからくるぶしを越えるまでの運動,d)くるぶしから動作終了までの運動,に対応する4個の作業状態から成り立つことがわかった.また,足の運動が作業に与える影響を調べるために,被験者の足首をテ-ピングにより固定して靴下履き作業を行わせた.その結果,靴下履き作業においては,手のみならず足の運動が重要であることが示された.定量的な分析ならびにマニピュレータへの移植は,今後の課題である.
|