超流動ヘリウムにおける量子渦は、ボ-ズ凝縮系に特有な巨視的量子状態の産物であり、超流動の物理に深く関与する重要な存在である。量子渦は、循環の量子化とともに、芯半径が原子サイズという際だった特徴を持っている。量子渦の物理に関しては膨大な研究が行われてきたが、未解決の重要問題が、量子渦の生成・消滅過程の解明である。芯の内部構造が無視できる場合の量子渦の運動は理想流体力学によって記述されるが、生成、消滅、再結合(reconnection)など渦構造が関与する現象は、(低温では)トンネル効果によって生じている。この現象は本来、三次元的に扱われるべきだが、従来の研究の多くは低次元の流体力学的考察に留まっていた。本研究は、流体力学および量子力学に基づき、理論解析および計算物理的手法の併用により、量子渦の生成・消滅過程の三次元ダイナミクスの解明を目的とする。 本年は以下の研究を行った。(1)非線形シュレディンガー方程式に基づく渦生成および再結合の解析 巨視的波動関数に対するシュレディンガー方程式の三次元解析を行い、渦の生成および渦同士の再結合の詳細な解析を行った。(2)回転系における量子渦生成の臨界角速度 回転容器中の超流動ヘリウムでは、回転軸に平行な量子渦格子が形成される。その平衡状態の二次元解析は行われたが、実際の現象は三次元的であり、多くの問題が未解決である。回転系における渦の三次元運動の解析は、境界条件の要請や、角運動量の三次元積分に起因する困難が伴うが、既に申請者は必要な計算コードを完成させた。これに基づき、渦生成のための臨界角速度、および成長のダイナミクスを調べた。(3)位相スリップにおける量子渦の生成と運動 近年、Micro Aperture中における位相スリップが注目されている。現在、この問題の最大の関心はVortex Nucleationにあるが、渦が生成される条件、また生成後の渦が位相スリップを起こす過程は不明である。そこで細管中の渦の運動を調べ、実験データと定量的に一致する結果を得た。
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