本研究では、多次元のトンネル現象の新しい半古典理論を構築し、その科学反応への応用を行った。特に、(1)トンネル座標以外の振動励起、脱励起のトンネルへの効果、(2)多次元トンネル化科学反応系(時間依存のトンネル現象)で、反応確率を高めるためのエネルギー注入モードや、生成物のエネルギー分布のあり方、(3)多体効果としてのカオスとトンネルの関わり、(4)同時に複数の粒子がトンネルする共同現象、等を定性的かつ定量的に解明しつつある。 我々の提案した多次元トンネル理論は、配位空間にトンネル次元と非トンネル次元を許容する。運動のパリティーと称する、1か-1の指数を各次元に割り付け、1については通常の古典力学的運動(ニュートン運動)、-1については反ニュートン運動、つまり、ポテンシャルの坂を登っていく運動が許される。後者の次元がトンネルに対応するが、系全体は非分離系として運動するので、トンネル次元と非トンネル次元は、相互作用してエネルギーの交換を行う。全てのパリティーは1のとき通常の古典力学(ニュートン力学)に復帰する。トンネル現象は、ニュートン解の空間から、幾つかの(通常1個の)パリティーを負に変えることによってトンネル位相空間に移り、そこに滞在してから、再びパリティーを1に戻してニュートン空間に戻る軌道の集合と捉えられる。 この一般化された古典力学解を経路積分に組み込み、トンネルを許容する半古典理論を構成した。これを一般的な化学反応系に応用したところ、トンネルチューブと呼ぶ多様体の存在とその重要性が明らかになった。トンネル現象を起こし易くするためのエネルギー注入のモードや、生成物におけるエネルギー分布などが、このトンネルチューブの大きさによって決定されていることが分かった。
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