研究概要 |
本研究では階層化した熱帯の大規模降水システムの組織化機構において水循環および放射の果たす役割を定量化することを目的とする。H8年度は、衛星観測による雲データと一次元放射モデルとを用い、大規模雲活動が大気上端や地上の放射フラックスおよび大気加熱におよぼす効果を計算する手法を開発した。さらに、実際のデータを用いて様々なタイプの雲の消長と放射効果への影響を調べた。また、西太平洋暖水域や東太平洋偏東風域のように、大規模場状況が異なる場合を比較し、大規模場と雲システムの放射効果との関係を調べた。 放射計算に当たって、雲データはISCCP D1の15種類の各雲型についての光学的厚さ・雲頂温度・雲量を用いた。大気プロファイルは、ECMWFの格子点データの気温・高度・相対湿度を用いた。放射モデルは中島(東大CCSR)他によるfatar5bを用い、短波放射は0.2-4μm、長波放射は4-100μmで積分した。 季節内振動に伴う大規模雲システムが西大西洋域から東太平洋域を東進した1990年3月について計算し、西太平洋暖水域(2.5N-2.5S,150-160E)、東大西洋偏東風域(Eq-5S,100-90W)の2領域での毎日の大気上端・地表の雲の放射強制および、放射による大気加熱を解析した。その結果、大気上端での雲の放射強制の時系列における雲型別の寄与が定量化された。西太平洋での平均的加熱のほとんどは薄い巻雲が、東太平洋の平均的冷却は定住する低層雲が担っており、深い対流活動に伴う厚い上層雲は、大きな振幅を持つが短波・長波でほぼ相殺して中立であった。また、雲の鉛直大気加熱への寄与の解析から大気の安定度に対する雲の時間変化の効果を明らかにした。
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