研究概要 |
ケイ素原子を含む傾斜機能材形成プロセスにおいては,これまで主に反応性ガスの基板上での熱分解反応を利用したCVD法が用いられてきた。しかし,CVD法においては,取扱いに注意を要するシランガスを高濃度で用いており安全性に問題があること,薄膜形成には基板の高温加熱が必要であること等の制約がある.本研究においては,レーザー光による有機化合物の光化学反応を用いた低温での傾斜化プロセスの開発を目的とした。光反応と熱分解反応を比較した場合,光化学反応においては,光励起波長選択的な化学反応の制御,低温での薄膜形成プロセス,空間選択的な光化学反応による薄膜のパタ-ニング等の利点がある. ケイ素計薄膜の形成は,モノマーとしてジクロロメチルフェニルシランを用い,5x10_<-3>Torrの減圧下,モノマーを60℃で加熱し,-5℃に冷却した基板上にモノマーを凝縮させ,石英窓を通してレーザー光(Nd : YAGレーザー第4高調波266nm)を照射することによって行った。反応中間体の観測や分子軌道計算から,ジクロロメチルフェニルシランの光化学反応による薄膜形成は,Si-Cl結合の開裂いによって生成したシリレンを経由して起こることが明かとなった。XPSスペクトルによるSi/C組成の解析からは,Siネットワーク構造の形成が同時に起こっていることが示された。また,フォトマスクを介したレーザーCVDによって薄膜のパタ-ニングを行うことができた。炭素系薄膜の形成は,アセナフチレンのレーザーCVDによって同様に行った.これら2つのモノマーのレーザーCVDを組み合わせることによって,低温でのSi/C組成の傾斜化プロセスについての検討を行った。初めに,アセナフチレンをモノマーとして用いてレーザー光(355nm)でカーボンリッチな薄膜を形成する。次に,アセナフチレンとジクロロメチルフェニルシラン共存下で両方のモノマーの光化学反応が可能な266nmのレーザー光によって薄膜形成を行う。最後に,ジクロロメチルフェニルシランをモノマーとして266nmレーザー光CVDを行い,シリコンリッチな薄膜を形成した。得られた薄膜のXPSスペクトルによる解析からは,薄膜の深さ方向でのSi/C組成の減少が示された。
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