研究概要 |
マイクロスクレロデルミンAとBは1994年FaulknerらによりNew Caledonia近海に棲息する海綿の一種Microscleroderma sp.より単離された抗真菌活性を有する環状ペプチドである。(Candida albicans,Botrytis cinerea,Fusarium oxysporum等に対し成長阻害作用を示すことが報告されているが、その他の生理活性については詳細は判っておらず合成による供給が望まれている。グリシン、N-メチルグリシン、(3R)-4-アミノ-3-ヒドロキシ酪酸(GABOB)の他に全く新規の構造の2-カルボキシトリプトファン、ヒドロキシピロリドンを含むアミノ酸、(2S,3R,4S,5S,6S,11E)-3-アミノ-6-メチル-12-(p-メトキシフェニル)-2,4,5-ヒドロキシデカ-11-エン酸(AMMTD)の3種の異常アミノ酸からなる環状ヘキサペプチドである。我々は海洋産生理活性物質の合成研究の一環としてこのMicrosclerodermin類の合成を企画した。まず始めに構造の新規の3種のアミノ酸の合成法を確立し、その後環状構造の構築により全合成を達成する計画である。本年度は構造の最も複雑な構成成分AMMTDの鍵中間体の合成を行った。 AMMTDの合成はメトキシフェニルエチレン部分を最後に導入し、連続した5個の不斉中心のうち4個を含む鍵中間体をまず始めに合成する計画をたてた。合成の鍵段階はシャープレスの不斉ジヒドロキシル化反応とドンド-ニのニトロンへのフランの立体選択的な付加反応である。 市販のメチル(R)-ヒドロキシイソ酪酸から出発しWittig反応でC3単位を導入し、シリルエーテル部を脱保護、酸化、Wittig反応により炭素鎖を延ばし不飽和エステル体とした。これをシャープレスの不斉ジヒドロキシル化反応に付すと24:1の選択性で望みの配置を有するジオール体をほぼ定量的に得た。ジオールを保護した後、エステルをアルデヒドに変え、N-ベンジルヒドロキアミンと反応し、ニトロンに変換した。これに2-フリルリチウムを塩化ジエチルアルミニウム存在下に反応させると7:1の選択性で望みの配置のanti体が主成して得られた。付加体は三塩化チタンでN-O結合の還元的開裂後脱ベンジル化し、N-Boc体へ変換した。更にフラン環を酸化開裂してカルボン酸、エステル化して鍵中間体を得た。鍵中間体からAMMTD誘導体への変換と他の構成アミノ酸の合成は現在検討中である。
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