研究概要 |
有機ケイ素化合物はフッ化物イオンとパラジウム触媒共存下に有機ハロゲン化物やトリフラートとクロスカップリングする。この反応は、フッ化物イオンがケイ素を求核攻撃して5配位シリカートを生じ、さらにパラジウム触媒と有機ハロゲン化物が反応して生じるパラジウム錯体とトランスメタル化することによって、初めて円滑におこる。フッ化物イオンを使うことなく反応を達成することの可能性を検討した結果、基質として炭酸アリルを用いると,パラジウム触媒との反応によりπ-アリルパラジウムを生じる際,脱炭酸してアルコキシドアニオンが生じ,これが有機ケイ素と反応して5配位シリカートを生じるため,クロスカップリングをフッ化物イオンを用いなくても中性条件下おこなうことができた。アリールシラン,アルケニルシランとの反応により,それぞれ対応するアリール置換オレフィン,1,4-ジエンが収率よく得られた。ジエンモノオキシドを基質に用いてもパラジウム触媒によりエポキシドが開裂して生成する双性イオンが有機ケイ素を活性化し,クロスカップリングをおこなうことができた。 また,フッ化物イオンのかわりに粉末水酸化ナトリウムを活性化剤として用いてもハロゲン化アリールとアリールクロロシランのクロスカップリングが進行し,非対称ビアリールを合成することができた。さらに,これまでのクロスカップリング反応ではハロゲン化アリールとして,臭化物,ヨウ化物,トリフラートなど反応性の高いものを用いなければならなかったが,パラジウム触媒の配位子としてP(i-Pr)_3を用いると、より安価で入手の容易な芳香族塩化物もカップリング相手に用いることができた。この反応を応用してTFT用液晶のコア部分となるビアリール骨格の実用的合成が可能になった。
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