研究概要 |
オルトキノジメタン誘導体を[60]フラーレンに位置選択的・立体選択的にビス付加させる方法を開発した。即ち、二回目の付加に位置選択性を持たせるため、前駆体をメチレン鎖で連結した化合物と、[60]フラーレンとのDiels-Alder反応により付加位置を制御した。架橋鎖のメチレン鎖の数を2あるいは3とした場合、同一半球の(A,C)付加体1と(A,D)体2のみが生じ、5とすると(A,H)体3のみが選択的かつ良好な収率で得られた。C2対称性の2と、C1対称性の3は、原料化合物がアキラルにもかかわらずキラルとなる。 これらをアミロース修飾体を固定相としたHPLCにより光学分割し、それぞれを単離してCDスペクトルを測定したところ、鏡像関係のスペクトルが観測され互いに鏡像体であることを明確に示唆した。C2対称性を有する2はキラルな付加様式のため、分子楕円率や旋光強度が非常に大きいが、置換基によってC1対称性を有し、[60]フラーレン表面上に局所的対称要素を持つ3の値は非常に小さいことが分かった。 2のエナンチオマーの絶対配置を決定するため、(R,R)-(-)-2,3-Butanediol残基を架橋鎖に用いて、一方のエナンチオマーをジアステレオ選択的に合成することに成功した。このCDスペクトルを利用してそれぞれの絶対配置を決定した。 400nmより長波長の領域において、2の紫外スペクトルの吸光度は小さく、ピーク位置も判別しがたいが、CDスペクトルの分子楕円率はこの範囲にあっても大きく、特に700-800nmのピークは位置異性体それぞれに特徴的であり、理論的検討に有効と期待される。 ビス付加体1-3の架橋鎖はルイス酸を用いて容易に切断できることが分かり、フェノール残基を二つ持つフラーレンビス付加体4-6へと変換することにも成功した。このようにして合成したビスフェノール体はフラーレン骨格の厚み8Åを持つ二官能性モノマーと見なすことができる。これらモノマー4-6を等モルのスペーサーと反応させ、ポリエステルやポリアミド、ポリエーテルの合成を試み、マクロな系での興味ある機能の発現を目指している。
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