研究概要 |
超高真空中で低温のグラファイトの劈開面に鎖状有機物を蒸着すると、分子が炭素骨格平面を下地に平行にして配列した厚さ0.4nmの単分子層が形成されるが、これは室温にすると分子の脱離が起こる不安定な系である。下地との弱い相互作用がもたらす分子の特異な凝集状態の不安定さを積極的に利用してこの系に特異な低次元反応(表面トポケミカル反応(STR))を起こすことにより、全分子を同一平面上に保持したまま新たな共有結合で結びつけ、二次元高分子の単一層(有機単原子層)を形成することを目指した。 17,19-hexatriacontadiyne(HTDY)および1,15,17,31-dotriacontatetrayne(DTTY)の単分子層に紫外線を照射し、ペニングイオン化電子分光(PIES)を用いてin situでSTRを追跡したところ、次の3点が明らかになった。1.紫外線照射の前後でアルキル鎖の平らな配向は変わらない、2.ジアセチレンとアセチレンのπ軌道はポリジアセチレンとポリアセチレンの長いπ共役系に変換される、3.紫外線照射後基板を室温にしても試料は昇華しない。これらの結果から、HTDYとDTTYは、それぞれ、帯状巨大分子(atomic sash)と織物状巨大分子の単一層(atomic cloth)に変換されたと考えられる。後者についてはSTM観察を試み、atomic clothと下地との格子整合に基づく像のコントラストの変調パターンの解析からatomic clothの周期構造定数を決定でき、各鎖の配列状態が明らかになった。 また、単原子層を重ねて原子レベルで厚さを調整可能な層状組織体(極薄有機材料)を構築する方法を開拓するための基礎として、PIESによりHTDYの単層成長を調べた結果、多分子層では表面分子の短軸が若干傾き、STRの条件が満たされなくなることがわかった。したがって、HTDY多分子層のSTRでは、atomic sash積層膜は得られず、atomic sashを新たな下地として単分子層蒸着とSTRを交互に繰り返す必要がある。
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