研究概要 |
硝化細菌Nitrobacter winogradskyiは地球環境中の窒素の循環過程のうち硝化作用、すなわちアンモニア態窒素から硝酸態窒素への酸化の過程において主要な役割をはたしている。従って本細菌にあって亜硝酸塩の硝酸塩への酸化反応を触媒する亜硝酸塩酸化酵素(Nio:nitritecytochrome c oxidoreductase)は、生物学的な硝化作用を理解するにあたっての鍵となる酵素蛋白質であるといえる。この酵素は補欠分子族としてモリブドプテリン・鉄硫黄クラスター・ヘム鉄を含み、4種のサブユニット(145,59,30,20kD)から成る分子量約250,000の巨大な膜結合性の金属蛋白質であり、またA型ヘムを持つ蛋白質としてはシトクロム酸化酵素以外では唯一のものであるという特徴をもっている。熱力学的には非常に不利な反応であると考えられる本酵素反応(NO_<2->+2cyt._<c3+>+H_2O→NO_<3->+2cyt._<c2+>+2H_+;ΔG=+29kJ)におけるこれらの金属補欠分子族の役割を、蛋白質の立体的な分子構造を明らかにすることによって解明することを最終的な目標として、現在この酵素をコードするnioオペロンの全塩基配列の分析を進めており、これまでにNioA(145kDサブユニット)、NioC(30kDサブユニット)、NioX(機能不明)をコードする遺伝子の全塩基配列と、NioB(59kDサブユニット)の部分配列を決定した。 NioAのアミノ酸配列中に[4Fe/4S]型鉄硫黄クラスターおよびMGD(Molybdopterin Guanine Dinucleotide Cofactor)の結合部位と推定される配列が認められた。またNioC中に2分子のヘムCが存在することが確かめられた。この研究によって明らかとなったNioの構造、及びこれまでに本研究室において進められてきた分子的・酵素学的研究の結果からNioの反応機構を提案した。さらにNioが、大腸菌や枯草菌の硝酸塩還元酵素のものと高いアミノ酸配列上の相同性を示すことが見いだされた。硝化および脱窒という2つの窒素循環過程をそれぞれ司どる酵素がいわば兄弟関係にある蛋白質であるという発見は、生物進化と環境との関わりという点からも興味深い。
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