研究概要 |
PEPカルボキシラーゼをはじめとする多くのC_4光合成遺伝子は窒素栄養に応答した選択的な発現制御を受ける.我々はこの現象に対して,「窒素濃度の変動を感知して根で合成されたサイトカイニンは,導管を経由して葉へと輸送され,葉肉細胞においてC_4光合成遺伝子の転写を活性化する」との作業仮説を設定するに至っている.本研究では,サイトカイニン蓄積を担う代謝的要因の同定を最終的な目的として,以下のような成果を得た.(1)抗サイトカイニン抗体カラムによる分離後のELISAによる定量により,窒素欠乏状態にあるトウモロコシ個体への硝酸補填により根で含量が増える複数のサイトカイニン分子種のうちの一つは,イソペンテニルアデノシン-5'ーリン酸(iPMP)であると結論した.窒素補填1時間後からiPMP含量が増え始め,2時間後には補填前の100倍以上に上昇し,4時間後でもその蓄積量の減少は僅かなものであった.(2)窒素補填に伴うiPMPの短時間の蓄積には,サイトカイニン代謝系酵素の活性変動が関与しているのではないかと考え,窒素補填に伴う酵素活性の変動の有無を調べた.その結果、窒素補填過程においてもヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ及びゼアチン-O-グルコシダーゼの活性に変動は見いだされず,それ以外の代謝系酵素(例えば,iPMP合成に関わるイソペンテニルトランスフェラーゼ等)の活性変動を調べる必要があると考えられた.(3)ディファレンシャルディスプレー法により,サイトカイニンによりトウモロコシ葉組織中で誘導されるcDNAを1種類(ZmCiP1)を得た.CIP1のアミノ酸配列は,大腸菌の走化性に関わる二成分情報伝達系のレシーバータンパク質であるCheYと高い相同性を示した.窒素欠乏状態のトウモロコシの根に硝酸にアンモニアを補填する一過的にZmCiP1mRNAの蓄積が葉組織中で観察されるが,窒素欠乏状態や窒素充足状態のままでは蓄積が見られなかった.さらに,根においては窒素栄養状態に関わらずZmCip1 mRNAは検出されていない.このCIP1は,サイトカイニンを結合したセンサータンパク質がリン酸化された後,そのリン酸基を下流のシグナル因子へと渡す仲立ちをしているのではないかと推定される.
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