研究概要 |
環境水のような不特定多様汚染された水に起因する人体影響を包括的に評価する手法として,バイオアッセイが注目されており,水環境管理への導入も提案されている.培養ヒト細胞を用いたバイオアッセイは,ヒト健康障害リスクの評価にとっては望ましいと考えられるため,Amesテストなどと組み合わせた上で導入されることが想定される.しかしながら,従来の動物細胞を用いたバイオアッセイに関する研究は,短期間暴露における一般細胞毒性しか評価していない. そこで本研究は,ヒトの正常線維芽細胞・神経細胞株・肝細胞株について最長で亜急性相当期間における臓器特異的な毒性を,農薬をモデル環境汚染物質として,短期暴露・一般細胞毒性評価試験と併せて検討した.その結果,数種の農薬で,一般細胞毒性の発現濃度の1-2桁程度小さい程度で,臓器特異的な毒性や長期負荷の毒性が表れた.この結果は,臓器細胞が死亡しない低い暴露濃度でも臓器機能障害が表れる可能性を示しており,ヒト健康障害リスクの評価においてはこの可能性を考慮する必要があると結論できた. また,前年度までで水道原水ともなる環境水(河川水)に無視し得ない強い毒性が測定されたことから,環境水に農薬を添加した汚染水道原水をモデルとして,上水処理プロセスにおける毒性低減効果をこれらのバイオアッセイを用いて評価した.添加された農薬は,途中のオゾン処理で完全に分解されたが,依然として農薬の分解生成物に起因すると思われる細胞毒性や変異原性が測定された.このことは,原体濃度のみに着目している現状の水質管理の限界を指摘している.今後,上水処理プロセスの評価やその改善・新たな処理法の開発などについて,個別化合物の濃度に着目するばかりでなくバイオアッセイを用いた検討をも行う必要があろう.
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