研究概要 |
酸性雨により土壌から溶け出すさまざまな金属イオンを吸収した植物は種々の障害を受け,これが地球環境問題のひとつとなっている.本研究は,HPLC(高速液体クロマトグラフ)とICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を直結した計測システムを用い,とくに重金属ストレスに対する植物の応答を分子レベルで解明することを目的に実施した.前年度に,単細胞藻類(シアノバクテリア)を試料とし,カドミウム(Cd)や亜鉛(Zn)のストレスが体内にメタロチオネインという特殊なタンパク質を誘導することを確認し,定量的データを集積した.今年度はイネ・ニンジンなどの高等植物を試料に用い,その成体やカルスが土壌の重金属ストレスに対して示す生物学的応答の解析を行った。システインに富むペプチドまたはタンパク質の誘導が起こると想定し,システイン(SH基)の高感度分析のために,5,5′-ジニトロビス(2-ニトロ安息香酸)を利用する蛍光計測の条件を確立した。たとえばイネの場合,成体ではカドミウム(Cd)曝露によって高濃度のフィトキレチン(PC.システインに富む一群の小型ペプチド)が根部に誘導されることを確認し,その同定とCd/PC比の計測を進めた.亜鉛,ニッケル,コバルトなどの重金属ではフィトキレチンの誘導は起こらなかった.
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