研究概要 |
フィトケラチンは少数のアミノ酸からなるペプチドであるが、分子内にγ結合を有するため直接mRNAから合成されるのではない。従ってまず合成経路を明らかにし、その中のキ-エンザイムを発見する必要があるが活性が極めて不安定であるため、部分精製しか成功していない。著者らはこの研究に先立ってカルボキシペプチダーゼY(CPaseY)が高濃度のグルタチオンを基質として試験管内でフィトケラチン合成を行うことを認めた。そこでこのCPaseが植物体内でフィトケラチン合成に関与しているとの推定のもとに研究を進めた。 水耕したイネの根から粗酵素液を得た。このものを硫安分画、ゲル濾過、イオン交換クロマトで精製しフィトケラチン合成活性の最も高い画分を部分精製画分として以後の実験に供した。フィトケラチン合成活性は、0.03mMのCd共存下に本画分を5mMグルタチオンと混合し2時間インキュベートした後、逆相クロマトで分離しDTNBでポストカラム法で染色して410nmの吸収から求めた。部分精製画分をSOD-PAGEで分離し、CPaseYを抗原として作製したウサギ抗血清を用いてウエスタンブロットで検討した結果、フィトケラチンの合成活性が最も高い画分で抗血清との交互作用が最も強いことが認められた。部分精製画分に各種のペプチダーゼインヒビターを作用させたところ、CPaseインヒビターとセリンプロテアーゼインヒビターで阻害が見られ、アミノペプチダーゼインヒビターはほとんど阻害効果を持たなかった。市販されているCPase(A,Y,W)を用いてフィトケラチン合成活性を調べたところ、いずれの酵素も合成活性を示すことが認められた。以上の実験結果から、植物体内においてもCPaseがフィトケラチンを合成している可能性が大きいものと考えられた。今後筆者らが用いている試料からCPaseを精製しフィトケラチン合成活性について検討を進める必要がある。
|