研究概要 |
本研究では多くの環境化学物資と生体内物質との複合作用によるヒト遺伝子損傷を総合的に検討し、発がんにおける遺伝子的因子や食生活因子の関与を究明し、予測される環境変化に対処することを目指す。本年度は(1)ベンゼン代謝物によるDNA損傷、(2)ビタミンEによる酸化的DNA損傷について検討した。(1)ベンゼンは大気中に存在するAmesテスト陰性の発がん物質である。ベンゼン代謝物のp-hydroquinone(HQ)およびp-benzoquinone(BQ)によるDNA損傷およびアポトーシスの機構について解析した。[結果・考察]培養細胞をBQあるいはHQで処理すると巨大DNA断片とDNAラダーが観察された。細胞内においては、HQはセミキノンラジカル次いでBQに酸化され、BQは生体内還元物質によりセミキノンラジカルに還元される。この過程で過酸化水素が生成されベンゼン代謝物によりDNA切断が起こり、発がんあるいはアポトーシスに至ると推定された。その他のAmesテスト陰性の発がん物質であるBHT、2,4,5-トリクロロフェノール、パラジクロロベンゼンなどについても同様の結果が得られた。(2)ある種の抗酸化剤が発がんを抑制することが報告され、がんの化学予防が試みられている。しかし、最近の疫学調査ではβカロチンはかえって肺癌を増加させるとの報告もある。そこでビタミンEとDNAとの化学反応性を指標に発がんへの関与の可能性を検討した。[結果・考察]微量のビタミンEがCu(II)存在下でp53 tumor suppressor geneから得たDNA断片を強く損傷し、過酸化水素とCu(I)のDNA損傷への関与が示唆された。本実験はビタミンEもβカロチンと同様に抗発がんのみならず、発がんにも関与する可能性を示唆した。今後、環境因子への感受性に対する食生活因子の関与のメカニズムを解明していく予定である。
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