研究概要 |
ダイオキシ(dioxins,正式な化学名のカナ表示はジオキシン)類の中で2,3,7,8四塩化ジベンゾパラジオキシン(2,3,7,8-dibenzo-p-dioxin,以下TCDDと略)は極めて強い毒性を持つ化学物質として恐れられている。TCDDはアリル炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor、以下AhRと略)を介して毒性を発揮するとされ、マウスでは胎仔に口蓋裂と水腎症(腎盂拡大)を起こす。マウスのAhR遺伝子の塩基配列は東北大学大学院理学研究科の藤井義明教授のグループにより決定された。これに基づいて東京大学医科学研究所の勝木元也教授らのグループによりAhR遺伝子ノックアウトマウスが作製された。AhR-/-XAhR-/-の高配で妊娠したマウスの妊娠12.5日(腟栓発見日=妊娠0日)にTCDD40μg/kg体重を1回強制経口投与し、妊娠18.5日に母体を屠殺して胎仔の口蓋裂、水腎症の発現頻度を調べたところ、これらの異常の発現がAhRを介することを示すデータが得られつつある。一方、野性株(AhR+/+、C57BL)のマウス胎仔でのAhR遺伝子の発現をインシツハイブリダイゼーションで調べたところ、その分布とTCDDによる異常発生の部位特異性に直接関係はないようである。また。野性型妊娠動物の妊娠12.5日にTCDD40μg/kg体重を1回強制経口に投与し、その後経時的に胎仔を取り出してmRNAを抽出し、分別表示(differential display)法で無処置胎仔と比較したところ、若干の遺伝子の発現に差があることが示唆されつつある。また、jcl : ICRマウスを交配し、妊娠12.5日にTCDD40μm/kg体重を1回強制経口投与し、その後経時的に胎仔を採取して二次口蓋突起内側縁上皮の細胞動態をBrdUの取り込み、TUNEL法による細胞死検出などで検索したが、対照群とTCDD投与群間に差異は認められず、TCDDの細胞増殖刺激、細胞死阻害によって口蓋の癒合が阻害されるとする従来の定説は誤っている可能性が示唆された。
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