研究概要 |
生体膜燐脂質由来のジアシルグリセロール(DAG)がCキナーゼ(PKC)に対し、特異な活性化作用を示すことは衆知の事実である。我々は昨年度の本研究で過酸化されたDAG(DAG-OOH)がどの様なPKC活性化作用を示すが検討した結果、通常の(“native")DAGより遙かに強く、もっとも強力なPKC活性化剤として知られるホルボールエステル(PMA)とほぼ同等であることを証明した。一方、PMAはその強力なPKC活性化作用を介して、神経細胞にAlzheimer様病変(neurofibrillary tangles形成)を作ったり、海馬でのlong-term potentiation (LTP)増強に異常を生ぜしめ得ることが実験的に示されている。しかし、PMAは所詮、人工産物であり生体に同様な現象が起こるとは、断定しにくい。そこで本研究では、ほぼ同等なPKC活性化作用を有し、かつ生体膜の過酸化から実際に発生し得るDAG-OOHにその様な病変を引き起こす作用があるかどうかを調べるため、以下のような実験を行った。 PC12細胞(副腎髄質腫瘍由来の細胞)をNGFで分化誘導させたものを実験に用いた。まず、(1)PC12/NGF細胞に、PKCが発現しているかどうかを、PKCが発現しているかどうかを、PKCα,β,γ,δ,εなどが発現していることが判明した。次いで、(2)培地中にa)"native"1,2-DAG、b)1,2-DAG-OOH、c)1,3-DAG-OOH(人工産物でPKCの活性化が起きない)、d)PMAを加え、PC12/NGF細胞にMattsonらがPMAを与えた時に認めたような形態学的な変化(Exp.Neurol.,112,1991)の発現があるかどうかを検索した。その結果、PMAと1,2-DAG-OOHではMattsonらの場合と同様、神経突起に数珠状の小塊と短縮が認められた。この実験を通し、膜脂質の過酸化→DAG-OOH発現がAlzheimer病などのPathogenesisとして重要な意義を持ち得る事が示唆された。
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