研究概要 |
本年は,3年間の研究計画の最終年度であり,以下の成果が得られた. (1)シベリア永久凍士から発掘された約2万5千年前のマンモス組織から,DNA抽出と遺伝子増幅(PCR)に成功した.そして,ミトコンドリアDNAのチトクロームb遺伝子および12SリボソームRNA遺伝子の全領域について,塩基配列を決定することができた.また,現生のアフリカゾウならびにアジアゾウについても同様に塩基配列を決定した.これらの塩基配列に基づき,塩基置換および分子系統樹を検討したところ,上記のゾウ亜科3種はお互いに近いが,マンモスはアジアゾウよりもアフリカゾウにより近縁であることが示唆された. (2)リス科齧歯類において,ムササビ・モモンガなど被膜をもったグループが単系統群であるかどうかを追及するため,ミトコンドリアDNAのチトクロームb遺伝子ならびに12SリボソームRNA遺伝子領域の分子系統学的解析を行った.その結果、両遺伝子の特徴は共に,被膜をもつムササビ・モモンガのグループが単系統であることを支持した. (3)ニホンジカについて,D-loop領域の全塩基配列を決定し、その地理的変異を検討した.その結果,偶蹄類の中でもニホンジカに特異的な繰り返し配列を検出した.その繰り返し数はそれぞれの地域に特異的であった.さらに,塩基配列全体の比較により,北日本(北海道,本州を含む)グループと南日本(九州および周辺の島々を含む)グループの間に遺伝的分化があることが明らかになった.また,北海道のニホンジカ集団(エゾシカ)には,少なくとも6つのD-loopタイプが存在し,その分布パターンが北海道における植生と深く関与していることが示唆された.
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