研究概要 |
[目的]われわれはこれまでの研究から、アルドラーゼ分子には4つのアイソザイム固有の配列(IGS-1,-2,-3,-4)が存在すること、キメラ酵素の解析からIGS-1と-4がアイソザイムの酵素学的性質を規定していることを実証してきた。本研究では進化度の異なる生物種のアルドラーゼにおいて、このIGS相当領域が酵素機能決定に役割を果たしているかどうか、またIGS相当領域のアミノ酸置換が酵素の機能進化に何らかの役割を果たしている可能性があるかどうかを知るために、線虫Caenorhabdiris elegansのアルドラーゼ遺伝子のクローニングと構造解析をおこなった。 [結果]C.elegansからアルドラーゼ遺伝子のクローニングを試みた結果、2種類の異なるcDNAクローンCe-1とCe-2が分離された。Southern blot analysisからCe-1とCe-2は別々の遺伝子によってコードされている。Ce-1とCe-2は、いずれも366個のアミノ酸をコードするORFを持つ。両者のアミノ酸配列は脊椎動物、無脊椎動物の酵素と有意のホモロジーを持つ。また、ORFから推定されるアミノ酸配列は互いに高いホモロジーを持つが、脊椎動物アルドラーゼのIGS-4に相当するカルボキシル末端領域の配列は著しく異なっている。Ce-1とCe-2から発現したリコンビナント型酵素(CE-1とCE-2)の酵素化学的性質を調べた結果、CE-1は既知のアルドラーゼと異なる性質を示したが、CE-2は脊椎動物のA-型、B-型、C-型の3つのアイソザイムのうち、祖先型酵素に近い性質を保存していると考えられているC型に類似した性質を持っていることが確かめられた。 [結論](1)C.elegansは複数(2種類)のアルドラーゼ遺伝子(Ce-1、Ce-2)を持つ。(2)2つの遺伝子は蛋白質をコードする領域のうち、IGS相当領域が相互に異なっている。また、他の生物種のそれとも異なっている。さらに、Ce-2から発現する酵素だけが祖先型に近い性質を示すことから、遺伝子重複によって生じた2つの遺伝子のうち、Ce-2遺伝子は祖先型を維持したのに対し、Ce-1遺伝子はC.elegansに固有の進化を逐げたものと思われる。また、その進化は主にIGS相当領域の塩基置換によって起こったと考えられる。
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