研究概要 |
研究目的 E1AF遺伝子はetsファミリー転写因子をコードするが、我々の研究によって単離され、また肉腫の発症と癌の浸潤にかかわることが示唆された。本研究では、肉腫発症機序を明らかにするためEWS-ETS転写因子の機能を解析した。また、E1AFと癌の浸潤の関係を明らかにするためにE1AF遺伝子やそのアンチセンスを細胞に導入した。 方法と結果 (1)Ewing肉腫/PNETと病理学的所見から推定された1症例を核型分析、Fish法、サザーンブロット法を用いて分析し、染色体転座t(17;22)(q12;q12)によるEWSとE1AF遺伝子の融合を明らかにした。 (2)EWSプライマーとE1AFプライマーを用いたRT-PCR法により、EWS-E1AFcDNAをクローン化、構造を決定した。その結果、EWSのexon7とE1AFのC末側から5番目のexonがin frameで融合していた。また、EWSとE1AFのゲノム上の融合点も上記のプライマーを用いてPCR法で増幅、塩基配列を決定した。 (3)EWS-E1AFに転写抑制作用を見い出した。E1AF,EWS-E1AF発現ベクターを構築、ets1,ets2,EWS-ERG発現ベクターを他研究室から入手した。これらが種々のプロモーターに及ぼす影響を調べた結果、EWS-E1AFとEWS-ERGはどちらも、ある種の増殖関連遺伝子のプロモーターを抑制した。この抑制は、ETSドメイン単独ではみられず、EWSの領域が必要であった。一方、ets1,ets2,E1AFは逆に促進に働いた。 (4)E1AF発現ベクターをG418耐性をマーカーにして低浸潤性のMCF7細胞に導入し、細胞の浸潤能に対する影響をマトリゲルをコートしたBoyden Chamber法とヌードマウスに対する皮下注で調べた。その結果、E1AF導入細胞では92kDIV型コラゲナーゼが誘導されて、また、in vitro浸潤活性とin vivoでの浸潤組織像がみられた。 (5)E1AF遺伝子のアンチセンス発現ベクターを浸潤能が高い口腔癌細胞HSC3に導入した結果、アンチセンス発現細胞は対照に比べて、マトリックスプロテアーゼの減少と浸潤能の減弱を示した。 (6)口腔癌8株、乳癌10株、神経芽腫5株のin vitro浸潤能とノーザン法で定量したE1AF mRNAを比較した結果、E1AFの発現と浸潤能のあいだに正の相関を認めた。
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