研究概要 |
分化能を有するヒト白血病細胞株HL-60細胞を用い、骨髄系細胞の増殖・分化の制御におけるCa^<2+>依存性蛋白脱リン酸化酵素カルシニュウリン(CN)の役割について解明することを目的とする。免疫抑制作用を有するサイクロスポリンA(CsA)やFK506はそれらの結合蛋白インムノフィリン[FKBP、Cyclophillin(CyP)]を介して主にCNを阻害することが知られている。HL-60細胞の細胞周期回転におけるCsA、FK506の影響を検討した。更に、HL-60細胞にレチノイン酸(ATRA)や活性型ビタミンD_3(1,25(OH)_2D_3)どの分化誘導物質を添加し、顆粒球系又は単球系細胞分化誘導とCN及びFKBP、CyPA発現の変動との関係を解析した。【結果】(1).CsAやFK506はHL-60細胞由来CN活性を阻害する濃度範囲でHL-60細胞の増殖を促進した。これら薬剤のHL-60細胞増殖促進効果は主にG1期の短縮に起因した。(2).CsA及びFK506はATRA又は1,25(OH)_2D_3による顆粒球系又は単球系への分化誘導には影響を与えないが、分化誘導物質による増殖抑制を解除した。(3).ATRA(又は1,25(OH)_2D_3)によるHL-60細胞の顆粒球系(又は単球系)細胞への分化誘導過程におけるCN発現を検討すると、分化の方向性とは関係なく分化成熟と平行してCN活性、CN蛋白発現はともに増加した。また、分化誘導刺激早期にCNのmRNA発現の増加が観察された。CNの活性化因子であるカルモデュリンは分化誘導してもその発現は変化しなかった。(4).ATRAによるHL-60の顆粒球系への分化過程でFKBPは増加するが、CyPAは一定であった。(考察)CN系はHL-60細胞の分化誘導過程には関与しないが細胞増殖に対して抑制性のシグナル伝達機構として作用しており、その主な作用点はG1期である可能性が考えられた。また、ATRA又は1,25(OH)_2D_3によるHL-60の顆粒球系又は単球系細胞への分化誘導過程において、CNの活性およびCN発現はいずれも増加し、これはCNのそれぞれのサブユニットmRNA発現の増加に起因することが示唆された。即ち、顆粒球系又は単球系への分化系列には関係なく分化誘導と共に増加することから、CNは増殖抑制性シグナル伝達系としてその発現が巧みに制御されていることが示唆された。
|