研究概要 |
ヒト上皮細胞モデルであるHAG-1細胞に,ヒト癌で活性化している癌遺伝子群を導入し,抗癌剤感受性の変化とその機序を解析した.v-src,c-Ha-ras,v-rafなどシグナル伝達に関与している活性型癌遺伝子を導入し、細胞特性と抗癌剤感受性の変化を調べた.活性化rasは浸潤能や造腫瘍能とともにシスプラチン(CDDP)耐性を誘導したが,活性型rasにはこのような作用はなかった.このsrc導入細胞のCDDP耐性機序を,薬剤の取り込みや排出・細胞内解毒機構・DNA修復機構の面から解析を行った.その結果,srcによるCDDP耐性機序は,PKCやPI-3 kinaseと関連なく,DNA内架橋鎖修復の亢進によることが明かとなった.この耐性はsrcキナーゼ阻害剤であるHerbimycin Aで克服され,同時に架橋鎖修復能の低下が見られたため,srcキナーゼの活性化はDNA修復能を高める働きをもつことが示唆された.srcは乳癌・大腸癌に悪性度が高いほど強く発現しており浸潤能と転移能に相関がある.このため進行癌や転移癌におけるシスプラチン耐性にチロシンキナーゼ活性が関与している可能性が出てきた。またsrcは転写因子であるSTAT3を恒常性に活性化していることがわかり,耐性誘導機序にSTAT3と修復酵素,特に除去修復酵素ERCC1のmRNA発現との関与が示唆される.現在、ERCC1とsrcとの関連を調べている.更に,生体内で高効率に遺伝子導入できるアデノウイルスに抑制変異型分子(Dominant negative ras)や癌抑制遺伝子(wild type p53,Cyclin-dependent kinase inhibitor-p21WAF1/Sdi1を組み込んだ組み換えアデノウイルスベクターを使用し、各種癌遺伝子発現細胞に及ぼす影響を薬剤感受性やアポトーシスの面から解析することにより、遺伝子治療の化学療法への応用の可能性を探っている。
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