研究概要 |
出芽酵母のイノシトール輸送系は二つの遺伝子ITR1,ITR2にコードされる。これら二つの輸送活性の違いを明らかにするために、ADH1プロモーターの下流に各々ITR1とITR2の遺伝子をつないだプラズミドを作成した。構築したプラズミドpAD-ITR1とpAD-ITR2(各々ADH1プロモーターの下流にITR1とITR2遺伝子を持つ)を、条件的イノシトール輸送系欠損変化株にpAD-ITR1とpAD-ITR2を導入して、イノシトール輸送系欠損が相補されるかどうかをみた。その結果、いずれの形質転換体も上記の条件で同程度に生育できたことから、両遺伝子産物は輸送活性を有することが確認できた。そこで次に、輸送活性を定量的に測定するために、イノシトール輸送系のみが欠損した株D458-5AにpAD-ITR1とpAD-ITR2を導入して、輸送活性を測定した。その結果、1)イノシトール無添加培地において、pAD-ITR2を保有する株の輸送活性はpAD-ITR1のものに比べて低く、1/2以下であった。2)pAD-ITR2を保有する株の輸送活性は、培地中にイノシトールを添加することにより活性が低下した。一方pAD-ITR1を保有する株の輸送活性は、イノシトール添加によっても活性の低下が見られなかった。従ってこれらのことから、ITP2遺伝子産物はITR1遺伝子産物に比べて明らかに活性が低く、構造上の違いにより輸送活性に差のあることが明かになった。また、ITR2遺伝子産物は蛋白レベルの調節(翻訳後のイノシトールによる活性抑制)を受けるが、ITR1遺伝子産物はこの調節を受けないことが示唆され、ITR1遺伝子産物の調節は、主として転写レベルであることが確認された。
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