研究概要 |
本年度は昨年度に引き続き、制御・修飾遺伝子の内でも未解明の部分が多いvif遺伝子を対象とし研究を行った。 昨年度は、HIV-1のvif遺伝子に変異を導入したときのウイルスの増殖性の変化を、Vifタンパク質の構造との関連で解析した。その結果、多くの場合軽微な変異導入でもその機能を失うことが明らかになった。Vifタンパク質は23kDaの小さなタンパク質であり、変異導入により容易に高次構造が乱されると推定される。 昨年度疑問点として残ったのは、88位のGluに関してである。このアミノ酸一個の欠失によりウイルスが完全に増殖不能となる。本年度は、先ずGlu88の意義について解答を出すべく、その近傍の配列も考慮し、Glu88をAlaおよびAspに、Trp89をAlaおよびTyrに置換した合計4種の変異ウイルスを新たに作製し、その増殖を解析した。その結果、どの変異ウイルスも親株と同様の増殖性を示し、Glu88は高次構造を維持する際のスペーサーとして機能しているのではないかと推定した。また、Trp89は、塩基配列既知の全HIV-1株間で保存されているにも拘らず、必須ではないことが判った。 Vifタンパク質の作用機序が明らかになっていない現状ではこれ以上の考察はできないが、今回作製した変異導入クローンは種々の実験に有用であると考えられる。例えば、Vifタンパク質をX線構造解析し、正常タンパク質と、極く僅かの変異で失活した変異タンパク質とを比較することにより、機能部位を特定できる可能性がある。そのためには、先ず精製Vifタンパク質を十分量得る必要がある。Vifタンパク質を大腸菌で発現すると、インクルージョンボディーを形成して不溶性になることが知られている。これを克服して、自然な立体構造を維持したタンパク質を得ることが従来の課題であった。それを解決すべく、発現ベクター、培養条件等を種々検討した結果、タンパク質を可溶性の形で発現することに成功した。現在、このC末端に6個のHis残基の付いたVifタンパク質(Vif-6xHis)を,Ni-レジンを使用したアフィニティーカラムにて精製を試みているが,吸着性に問題があり,その解決に努めている。
|