研究概要 |
私達は海馬DA1領域のシナプス伝達長期増強(LTP)の発現に伴って,CaMキナーゼIIの自己燐酸化反応が亢進し,Ca^<2+>非依存性活性が1時間以上亢進することを報告した。さらに^<32>P-無機燐酸でラベルした海馬切片を用いて,CaMキナーゼIIの標的蛋白質を調べると,シナプス前部ではシナプシンI,シナプス後部では微小管付随蛋白質2(MAP2)の燐酸化反応が持続的に亢進することを明らかにした(J.Biol.Chem.1995)。本研究では,海馬LTPにおいてプロテインキナーゼの活性化反応が持続するメカニズムについて調べた。最初に,種々の神経調節物質が段階的に分泌され,プロテインキナーゼの活性化反応を引き起こすことが考えられる。調べた中では,血小板活性化因子がCaMキナーゼII,MAPキナーゼを活性化し,同時にシナプス前部のシナプシンIの燐酸化反応を亢進することを確認した(Abs.Soc.Neurosci.1996)。一方,一酸化窒素,アラキドン酸にはこのような効果は見られなかった。次に,CaMキナーゼIIの脱燐酸化反応に関与するプロテインホスファターゼの活性を調べると,プロテインホスファターゼ2Aの活性が有意に低下していることが解った(Abs.Soc.Neurosci.1997,論文投稿中)。この時,プロテインホスファターゼ2Cの活性は変化しない。また,プロテインホスファターゼ1,プロテインホスファターゼ2BはCaMキナーゼIIの脱燐酸化反応には関与しない。これらの結果は,海馬LTPにおけるCaMキナーゼIIの活性化反応と基質の燐酸化反応の維持にLTPに伴って産生される神経調節物質,血小板活性化因子と,プロテインホスファターゼ2Aの活性低下が重要な役割を担っていること,さらに,蛋白質燐酸化反応が海馬LTPの維持にも関与する可能性を示唆している。
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