研究概要 |
イオノトロピック型グルタミン酸受容体の生理的・病理的意義については数多くの知見が集積されてきた。一方,メタボトロピック型グルタミン酸受容体(mGluR)の機能については,現在,解明すべく精力的な研究が展開されているところである。mGluRのサブタイプの一つであるmGluR2が副嗅球顆粒細胞の樹状突起に豊富に発現しており,鋤鼻嗅覚系の情報処理に重要は役割を果たしうるとの仮説が提唱されている。今回,ジーンターゲティング法によるmGluR2遺伝子の破壊が鋤鼻嗅覚系の匂い情報処理にいかなる影響を及ぼすかについて検討した。 鋤鼻嗅覚神経系の働きによって雌マウスに誘起される雄フェロモンのプライマー効果,すなわちVandenbergh効果,Whitten効果およびBruce効果についてmGluR2欠損雌マウス(ホモマウス)と野生型雌マウスを比較検討した。 野生型マウスにおいて、Vandenbergh効果,Whitten効果,Bruce効果のいずれも有意に誘起されなかった。そのため,mGluR2欠損が雄の匂いによるプライマー効果にいかなる影響を及ぼすかを評価することができなかった。この点に関して,匂いによる生殖内分泌効果にマウスの系統差があることが知られている。今回解析したマウスは,129Sv,C57BL/6J,およびBDF1の遺伝的背景を持つ。129SvとC57BL/6Jの両系統とも匂いによる生殖内分泌効果が起こりにくい系統として報じられている。 今後の対策として,今回のように,内分泌学的に解析するためには,匂いの効果が明白に認められる系統,たとえばBalb/cにmGluR2遺伝子の変異を乗せ換えることが必要である。
|