研究概要 |
我々は、ショウジョウバエ神経系に異常を有する変異体のスクリーニングにより、感覚器を含む神経系における細胞の分化・運命決定を制御している神経系特異的RNA結合性蛋白質をコードするmusashi遺伝子を同定した。musashi遺伝子ファミリーの哺乳類神経系における役割を明らかにするために、low stringenthybridization法により、ショウジョウバエmusashiに相同なmouse-musashi-1 (m-msi-1)遺伝子のクローニングし解析を行っている。本遺伝子産物は、神経系の前駆細胞に強く発現している。一方哺乳類のニューロン(postmitoticであり前駆細胞とは明らかに異なる細胞種である)に特異的に発現しているHu遺伝子産物(ショウジョウバエelavの哺乳類相同分子である)に関する解析も進め、神経系における転写後レベルでの発現調節機構の研究を進めている。 1.m-Msi-1遺伝子産物とHu遺伝子産物のニューロン分化過程における詳細な発現パターンの解析:マウス胎生期の中枢神経系を材料にして、厚さ0.5μmあるいは1μmの連続プラスチック切片を作成し発現パターンを検討し、神経幹細胞からニューロンの分化過程において、〔m-Msi-1(+),Hu(-)〕→〔m-Msi-1(+),Hu(+)〕→〔m-Msi-1(-),Hu(+)〕という発現パターンの変化が起きることが示された。この過程で、Huの発現量が増大するにつれてm-Msi-1の発現量が減少するという傾向が認められた。尚、極く少数であるが脳室(中心管)に面し、明らかに分裂中と考えられる細胞が共陽性であることが観察された。 2.m-Msi-1遺伝子産物の下流標的RNA配列の同定:ランダムな50merに相当するRNA分子をin vitro転写反応により調整し、m-Msi-1蛋白質のRNA結合ドメイン可溶性蛋白質との結合能を指標にm-Msi-1蛋白質が結合するRNA配列を同定し(in vitro selection法)、本蛋白質が(G/A)U_nAGUというコンセンサス配列を持ったRNAと結合することを明らかにした。これは報告されているHuの結合する配列とは異なり上記の必要条件を満たす。興味深いことに神経前駆細胞の非対称性分裂と密接な関係のあるマウスm-Numb遺伝子の3'-UTRにはこのm-Msi-1蛋白質結合のコンセンサス配列が数回繰り返して存在することが明らかとなった。 3.in vivoにおける機能解析: m-msi-1遺伝子に関しては、ジーン・ターゲッティングによるノックアウトマウス作成に成功した。現在詳細な表現型の解析を通して、本遺伝子産物の哺乳類中枢神経幹細胞の非対称的分裂における役割を検討中である。Hu(HuD)遺伝子についても既に遺伝子破壊を行ったES細胞由来のキメラマウス作成(癌研・野田哲生、慶大・高野利也との共同研究)に成功している。
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