研究概要 |
蛋白質の立体構造は、安定に存在するという物理学的な制約と、生命の維持に必要な機能を発現するという機能的な制約との2つがお互いにおりあいをつけた結果と考えられる。この2つのうち機能的な制約がどのようなものであるかを明らかにすることは、蛋白質の分子進化の研究や新規な機能を発現する蛋白質のデザインなどに重要な手掛かりをあたえるものと期待される。本研究課題では、ATPを反応に利用するという機能的な制約が蛋白質のフォールドにどのように反映しているのかを明らかにすることを目的として、蛋白質の立体構造比較をおこなった。比較の基準としてグルタチオン合成酵素(GSHase)を選んだ。構造の比較と類似性の抽出は、PDBに登録されている292種類の蛋白質を対象にして、2次構造要素の空間配置の類似性を調べるアルゴリズムCOSEC(Mizuguchi & Go,1995)を用いておこなった。その結果、GSHaseと高い立体構造の類似性を示したのは、D‐Ala:D‐Ala ligase,succinyl‐Coa synthetase,acetyl‐CoA synthetase biotin carboxylate subunit,pyruvate phosphate dikinase の4酵素のATP結合領域であった。これら5つの酵素は基質の化学構造と触媒反応機構が似ており、同じ機能を備えている。また、これら5つの立体構造を重ね合わせた(3D‐alignment)ところ、対応する2次構造の長さやアミノ酸残基は異なっているものの、各酵素における保存残基の極性や溶媒接触面積、水素結合形成のモードが極めてよく対応していた。これは、触媒機能が立体構造(形)とアミノ酸残基に制約を与えていることを示している。
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