研究概要 |
タンパク質の立体構造形成反応を助ける大腸菌由来の分子シャペロンであるGroEL/ESを用いて,タンパク質の構造形成における重要な側面を研究した。以下に具体的に要約する。 (1)シャペロニンGroELの再生中間体の認識機構 GroELは様々な蛋白質の再生中間体を認識して結合するが,結合認識にはどのような要因が働いているのかはまだ明確にされていなかった。我々は,チトクロームcの長さの異なる様々なペプチドを用いてGroELとの相互作用をそれらのコンフォメーションと比較しながら調べた。GroELは構造形成したネイティブなチトクロームcとは相互作用しないが,構造が壊れたコンパクトな構造を持ったアポチトクロームc,さらに比較的長さの長いペプチドとは強い結合を示した。詳細な実験より,これらの結合には疎水性相互作用とイオン的相互作用が要因であることが示され,中でも特に前者が重要であることが明らかになった。また,基質結合の反応速度論的実験から,GroELの再生中間体の認識はその中間体自身の構造形成反応速度との兼ね合い(競争)であることも示唆された。 (2)変異型シャペロニンを用いた機能発現機構の解明 我々は,Trp残基が全く存在しないGroELに,分子内在性としての固有の蛍光プローブとなり得るTrp残基等を導入した変異体数種類(T89W,C138W,Y203C)を作製した。この中で特に興味深い性質を示したT89W変異体を詳細に調べた。この変異体はATPを結合できるがその加水分解活性は持たない。この変異体シャペロニンを用いて乳酸脱水酵素の再生反応を行ったところ,野性型シャペロニンと同様な活性を発現することが明らかになった。この実験結果から,シャペロニンが仲介する構造形成反応には,ATPの加水分解エネルギーは必要ではなく,ヌクレオチドの結合の方が重要であることが明らかになった。
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