研究概要 |
我々は,リゾチーム結晶を用いた偏光ラマン測定により、200cm^<-1>以下の領域に分子内の振動に由来すると考えられる複数の散乱ピークが存在することを示した。結晶対称性に依存するスペクトルのわずかな違いは無視して,リゾチーム分子の基準振動の計算結果(京大・郷グループによる)と比較したところ,ラマンスペクトルは,基準振動のDensity of stateでおおよそ記述できるらしいことがわかった.また,リゾチームの結晶の水分量を減らした際のスペクトル変化から,振動に対する結晶水の影響を見積もることができるが、最も低い振動数領域に変化が現れることが分かった。今後,水和水の関与をどの程度計算に取り入れるか,振動の対称性での分離が可能かなどを考慮して,ラマンスペクトルと基準振動の関係を明らかにしていきたい. 湿った状態のリゾチーム結晶のラマンスペクトルの中心成分は、第2水和水の緩和モードに由来するが,その緩和時間は〜10^<-11>sと〜10^<-10>sと見積もられた.この緩和時間は自由水の数倍程度であり,予想以上に動きやすい水和水が存在することは明らかである.乾いた状態では,緩和モードの強度が減り,緩和時間も長くなることが確かめられた.(投稿中) 低温の熱測定から,リゾチーム結晶には明確に異なった凍結温度を持つ数種の"凍結水"が存在することがわかった.さらに結晶中の蛋白質の熱変性における吸熱量は,水溶液中における変性エンタルピーとほぼ同じであった。(Urabe et al.,1996)現在、熱測定とラマン散乱を並行して行い、水和水の凍結および熱変性の前後での,水和水の緩和時間の変化、および分子の全体振動の変化を見積もることを開始した.
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