研究概要 |
酵素として最も初期に発生したと考えられるアミノアシルtRNA合成酵素は、タンパク質の構造と進化を考える上で貴重な材料を提供する。代表者は、イソロイシルtRNA合成酵素に焦点をおいて研究を進めているが、これまでの研究で、種々の生物から単離された同酵素の構造を比較することから、この酵素は、一部の生物では、真核生物から原核生物への遺伝子の水平伝播が起こった可能性があること(Sassanfar et al.,1996)や、ヒト酵素が特異的に持つC末端の約200aaからなる付属ドメインが、高等真核生物に特有のアミノアシルtRNA合成酵素複合体形成に関わるドメインであること(Rho et al.,1996)などが分かった。この結果、イソロイシルtRNA合成酵素を含めたアミノアシルtRNA合成酵素は、その構造や機能に種特異性を強く持つことが明らかとなりつつあり、この性質を利用した種特異的な酵素阻害剤開発(Heacock et al.,1996)の応用利用も興味を集めてきている。ここでは、これらのイソロイシルtRNA合成酵素の進化の原動力となったと考えられるエクソン構造を詳しく知るため、ヒト細胞質型、ミトコンドリア型イソロイシルtRNA合成酵素のエクソン・イントロン構造を決定し、その起源について考察している。 細胞質型は34個、ミトコンドリア型は23個のエクソンから構成されていることが分かった。ヒト遺伝子の他にも、テトラヒメナと線虫細胞質の同遺伝子のエクソン・イントロン構造が分かっているので、この4者間でのイントロンの位置を比較してみたところ、相同領域の52個のイントロンの中で、5個が同じアミノ酸残基に位置していた。この中で、第4番目のイントロンは、線虫細胞質とヒトミトコンドリアの酵素に共通して存在しているので、このイントロンが、少なくとも真核生物と原核生物が分かれる以前にすでに存在していたことを示す。
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