植物固有の現象である不定胚形成を受精胚発生のモデルとする研究が発展してきており、また優良品種の大量繁殖法として不定胚の効率よい形成法を確立することは重要である。本研究は、最も不定胚の研究が進んでいるニンジンを材料として細胞培養ろ液中に含まれる不定胚形成促進活性を示す物質を精製して、その化学的性質を明らかにすることを目的としている。ニンジンより誘導したembriogenic callusのうち高頻度で不定胚を形成する細胞株と低頻度でしか不定胚を形成できない細胞株を選抜した。この高頻度株の細胞培養ろ液を低頻度株に与えると不定胚形成が促進される。この現象を生物検定に利用して、細胞培養ろ液に含まれる活性物質の化学的性質を調べさらに精製法を検討した。この結果、活性物質は熱に比較的安定な水溶性物質で、分子量は3000から10000のペプチド性物質であると考えられた。また中性条件下では安定なものの酸性特に塩基性では不安定であり、アフィニティー担体を用いた実験からおそらく糖部分を分子中に含まない物質であると考えられた。これらの性質を踏まえて次に活性物質の精製を行った。本物質は陰イオン交換樹脂に強く保持されることから強い酸性物質であり、精製の第一段階としては陰イオン交換クロマトグラフィーを使うことが有効であることが明らかになった。透析により脱塩後、ゲルろ過法による精製を試みた。各種担体と緩衝液を組み合わせて検討した結果、セファデックスG-50による精製法が最も良い結果を与えた。逆に逆相系担体を用いたHPLCの条件検討を行った。その結果、ODSカラム担体のポアサイズが300オングストロームの担体が良好な結果を与え、溶出溶媒の最適条件を現在検討している。現在までのところ活性区分には、複数のピークが見られることからよりいっそうの精製が必要であると考えている。
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