1つの未分化な受精卵から、様々に分化した細胞ができていく発生過程が、どのような遺伝的ネットワークに支配されているかを明らかにすることは、生物学の重要な課題である。植物は、受精卵からだけでなく、分化した細胞からも脱分化を経て完全な個体を形成するが、その遺伝的制御機構は分子レベルではほとんど明らかにされていない。本研究では、イネ初期胚発生を制御する遺伝的ネットワークを明らかにするため、イネ受精3日胚で発現するホメオボックス遺伝子をクローニングし、その胚発生における発現パターンを調べた。 イネ受精3日胚の固定化cDNAライブラリー等を用い、9個のホメオボックス遺伝子のcDNAを得た。これらの遺伝子の胚発生における発現パターンは、固定化cDNAを鋳型としたRT-PCRによって調べた。その結果、HOS13は受精1日目に最も強く発現し、その後2日目、3日目と徐々に弱くなり、4日目以降は発現が見られなくなった。HOS16とHOS24は受精1日目、2日目と徐々に強くなり、3日目で最も強く発現し、その後4日目、5日目と徐々に弱くなっていった。HAZIは受精1日目、2日目では弱く発現し、3日目以降では強く発現していた。HOS3とHOS9は受精1日から5日までの間、常に似たレベルの発現が見られた。 以上の結果より、イネ初期胚発生では数多くのホメオボックス遺伝子が様々なパターンで発現していることが分かった。特に、受精したばかりの1日目や器官分化が始まる直前の3日目で強く発現する遺伝子など、注目すべき発現パターンを示す遺伝子が得られた。 これらの遺伝子は、in situハイブリダイゼーションにより、胚発生における詳細な発現パターンを調べ、さらにプロモーター領域の解析と過剰発現が及ぼす形態的、遺伝的影響を調べる。これらによりイネ胚発生におけるホメオボックス遺伝子の役割と相互作用を明らかにしていきたい。
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