研究概要 |
LIFの機能受容体はIL-6受容体のシグナル伝達分子であるgp130としLIF受容体サブユニットから成る。このgp130・LIFR受容体複合体はヒトOSM、CNTF、CT-1にも共有されていることが知られており、従ってこれらのサイトカインにはPGCの増殖刺激活性がある。マウスOSMはヒトOSMとは低い相同性しか示さないため、まず精製した組換え体サイトカインを用いてマウスOSM,ヒトOSM,LIFの三者の生物活性と受容体に対する結合親和性を検討した。その結果、マウスOSMはヒトOSMと異なりLIF受容体を共有していないことが明らかとなった。 次に、マウスOSMの発現をRT-PCR法、In situ Hybridization法、そして抗体による組織化学的解析により調べたところ、マウスOSMは胎生11.5-14.5日のゴナド(雌雄)及び新生マウスの精巣セルトリ細胞に特異的に発現していることが判明した。卵巣ではOSMは検出されず、また精巣での発現は生後減少し、精子形成のおこる時期に消失した。このことは生殖器官を構成する生殖細胞と体細胞の増殖時期に一致している。そこでマウスOSMのPGCに対する効果を検討したところ、LIFで観られる直接的増殖刺激活性はなく、胎生11.5日ゴナドの体細胞を増殖刺激することで間接的にPGCの増殖を支持していることが明らかとなった。この初代培養系ではさらに、マウスOSM依存的に敷石状細胞のクラスター、造血幹細胞に特異的に観察されるコ-ブルストーン領域、そして未分化造血細胞が多数出現した。この培養系よりOSM依存性敷石状細胞株LOを樹立するのに成功し、そこからin vitroで血球細胞を分化させることができた。LO株の細胞表面抗原を認識する多数の単クローン抗体は新生マウス由来の精巣、卵巣を構成する体細胞にも発現しており、線維芽細胞には検出されなかった。造血幹細胞と生殖器官の発生場所が近いことが近年指摘されており、OSMの作用がその両者にわたり、かつ共通抗原が存在することはそれらの発生起源を考える上で興味深い。 次に、新生マウスの精巣を構成する細胞の初代培養を試みたところ、再びマウスOSMによりセルトリ様細胞の増殖が支持され、同様の効果はヒトOSMやLIFには観察されなかった。この結果はOSMが新生マウスの精巣セルトリ細胞のオートクライン増殖因子になっていることを示唆する。 以上の結果はマウスにおいてLIFとOSMは明確に区別された様式で生殖関連細胞の増殖に関与することを示す。本年度得られた結果を、さらに作成中のOSM遺伝子破壊マウスの詳細な解析により確認していきたい。
|