研究概要 |
目的:活性型Src tyrosine kinases(c-Src,Fyn,c-Yes)のC末端制御配列(QYQPG)を特異的に認識する単クローン抗体(clone 28)を用いて、活性型SrcとSrcとは構造的に異なる新規p38がM期紡錘体と終期中心体に局在することを見出した。染色体分配の分子機構におけるp38とSrcの役割を明らかにすることを目的とする。 本年度の成果:正常ラット線維芽細胞3Y1をノコダゾールでM期前期同調停止し、薬剤除去後M期を進行させp38と活性型Srcの細胞内局在と発現を、clone28による蛍光抗体法と生化学的方法により検討した。(1)中期紡錘体には活性型Srcのみ検出された。(2)後期の開始と同時にp38が急激に発現し後期紡錘体に濃縮された。この分画には活性型Srcも検出されたがその量はp38の約20%だった。p38はタキソ-ルにより中期・後期境界に同調した細胞の紡錘体にも検出された。以上より、p38は娘染色体分配が始まる後期のオンセットと進行に関与しているものと推察された。(3)p38は終期中心体にも濃縮されていたので細胞質分裂への関与も考えられた。Fynはp38と同様紡錘体や中心体に濃縮されていたが、c-Srcとc-Yesはその一部がこの分画に存在した。(4)c-Src,c-Yes,p38は微小管結合蛋白質が溶出される条件で紡錘体から溶出された。Fynはこの溶出に抵抗性を示した。(5)間期細胞では活性型Srcは膜画分に存在したが、p38はの核マトリックスに局在した。p38は等電点8.3と7.5を示し弱塩基性の核蛋白質であった。(6)p38はsrc^-/fyn^-,src^-/fyn^-/csk^-の二重、三重ノックアウトマウス胚由来株化細胞のM期紡錘体や核マトリックスにも存在したので、p38はsrcやfyn遺伝子とは独立した遺伝子産物であることが証明された。(7)これら二つの細胞からc-Yesを除去後、clone28でp38を免疫沈降しキナーゼアッセイをおこなった。p38のリン酸化はCsk陰性細胞の方がCsk陽性細胞より5倍高く、p38はQYQPGモチーフを持ち、この中のYがCskでリン酸化されSrc同様負に制御される可能性が示唆された。p38のセリンとチロシン残基の二つがリン酸化されていた。驚くべきことにセリンリン酸化が2倍高かった。p38自身がセリンキナーゼである可能性も考えられた。(8)clone28の抗体カラムを用いp38の精製をおこなった。p38の溶出はclone28のエピトープを含むペピチドを用いた特異性の高い条件で行った。溶出サンプルを濃縮し、銀染色、clone28によるイムノプロット、キナーゼアッセイをおこなった。銀染色でp38の主要なバンドに加えバンド65kDのバンドも検出された。p38はclone28と反応したが65kDは反応しなかった。精製条件から考えて、65kDはp38と物理的に強い結合をしているものと推察された。キナーゼアッセイではp38のみリン酸化された。(9)精製p38をマイクロシークエンスを行い、四つのペプチド、合計79個のアミノ酸配列からp38は新規の蛋白質であると結論できた。今後、p38のcDNAのクローニングやp38の特異抗体を作製し、p38の染色体分配機構における役割を明らかにしていく予定です。
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