研究概要 |
膵β細胞は高度に分化した細胞で、グルコース濃度に応じてインスリンを分泌する。インスリンはプロインスリンとして生合成され、トランスゴルジネットワーク(TGN)から出芽した幼若顆粒中でプロセシング酵素PC2とPC3によってCペプチドが切断され、A鎖とB鎖から成るインスリンに転換される。PC2とPC3は分泌顆粒中に存在し、至適pHは5.5で塩基性アミノ酸対を切断する。これに対して同じKex2ファミリーに属するFurinはTGNに存在し、至適pH7-8でArg-X-Lys/Arg-Argを切断する。この切断配列は多くの成長因子の前駆体に含まれているのでFurinは成長因子前駆体を活性型に転換し、細胞の分化・増殖を制御していると予想される。我々はインスリン分泌能が構成性分泌経路の蛋白分解酵素Furinの発現と反比例して減弱することを見出した。β細胞株MIN6でFurinを発現させるとPC2,PC3、顆粒内支持蛋白クロモグラニンAの発現が減弱し、インスリン含量が低下、グルコース刺激によるインスリン分泌量が減少した。Furinを発現させたMIN6-Fと、ベクターのみを導入したMIN6-0の増殖速度は、MIN6-Fの方が、MIN6-0より速かった。MIN6-F,MIN6-O,Furinを多量に発現するβ細胞株RINm5FのConditioned medium(CM)を集め、各CMで正常MIN6を培養すると、MIN6-FとRINm5FのCMはMIN6-0のそれより1.5-2.0倍MIN6のDNA合成を増加させた。それぞれの細胞にelastaseを阻害するα_1-アンチトリプシン(α_1AT)、thrombinを阻害するピッツバーグ型α_1AT変異体α_1PIT、Furinを阻害する変異体α_1PDXを導入してCMを作成した。各細胞のCM共α_1PDXで処理後MIN6のDNA合成刺激能が大巾に減弱した、従ってFurinの蛋白分解活性を阻害すると増殖促進因子生成が低下することが示され、Furinが増殖促進因子の生成に関与していることが明らかになった。
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