研究概要 |
ユビキチン系は、選択的に細胞内蛋白質を分解する生化学システムである。すなわち、一連の酵素群の作用で遊離型ユビキチンが標的蛋白質に結合しマルチユビキチン鎖を形成、これが26Sプロテアソームによる標的蛋白質の分解を誘起する。本研究は、白血病細胞の分化過程におけるユビキチン系の意義を解明する目的で行った。 n-酪酸やレチノイン酸などを用いて分化誘導した5種類の株化白血病細胞(K562,THP-1,HL-60,Jurkat,Daudi)から核と細胞質を分画し、各々から易様性および難溶性の蛋白画分を調製した。各画分単位蛋白質当りのマルチユビキチン鎖と遊離型ユビキチンを2種類のイムノアッセイで定量した。その結果、分化に伴いほとんどの細胞の核でマルチユビキチン鎖が増加し遊離型ユビキチンが減少した。また、THP-1細胞では、同様の変化が細胞質でも見出された。こうした変化がユビキチン系の活性化によるものかを検証するため、K562細胞をプロテアソーム阻害剤存在下で培養しユビキチン動態を経時的に解析した。その結果、対数増殖期細胞で認められた“同阻害剤によるマルチユビキチン鎖の蓄積"が、分化細胞の核においては全く見出せず、核のユビキチン依存性蛋白分解が分化によって激減することが示唆された。一方、分化細胞の細胞質では、同阻害剤による易溶性マルチユビキチン鎖の蓄積が顕著だった。今後の課題は、分化過程におけるE1、E2、E3の動態解析と細胞質マルチユビキチン化蛋白質の同定である。 本研究の過程で、急性白血病や急性転化期の慢性骨髄性白血病の患者から得た白血病細胞の易溶性マルチユビキチン鎖レベルが正常白血球やほとんどの株化白血病細胞よりも高いこと、ならびに同患者の血清に含まれるマルチユビキチン鎖濃度も健常人や他疾患患者より高値を示すことを見出した。これらの患者白血病細胞におけるマルチユビキチン化蛋白質の性状の解明も新たな課題である。
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