研究概要 |
本研究においては,以下の実験的および理論的研究を行なった. 実験面では,外山は,「大脳皮質神経回路の自己組織化」のテーマで研究した.ラット視覚野における長期増強(LTP)を検索し,出現時間が明らかに異なるfLTP(早いLTP)とsLTP(遅いLTP)の2種類が区別されることを見い出すとともに,脳磁図計を用いて混合運動刺激(MM,7.5-35%の逆方向運動を含むSM)を用い,MMとHMの脳磁図差分信号の脳内分布および主観的輪郭認知との相関を調べた.主観的輪郭認知と V2/3の差分信号は並行して変化した.このことは主観的輪郭認知の座がV2/3であることを示している. 酒田は,「三次元図形記憶の神経機構」について研究し,サル前部頭頂間領域(AIP野)で操作対象の三次元的形態(円環,円柱,円錐,球,立方体,四角板)を識別するニューロンを見い出した.その中に遅延手操作課題で遅延期間に持続的活動を示すものがあり,三次元図形の短期記憶に関係していると推定された.また,後部頭頂間領域(CIP野)で平面の三次元的方位を識別するニューロンがみつかり,両眼視差の勾配から平面の方位を計算していると推測された. 塚田は,「海馬神経回路における時空間学習則と記憶の書き込み」について研究した.オプティカルレコーディングによる多点同時計測により,時空間刺激に対するLTPの分布を解析することによってラット海馬CAl回路における時空間学習を明らかにし,これを基にした時空間学習則が,海馬神経回路の荷重空間でのパターン分離機能という点で優れていることをモデルシミュレーションによって明らかにした. 山鳥は,「ヒトの記憶機構の分化と局在」に関して,臨床症例の検討と神経画像法による正常人の研究の両面から,ヒトの記憶機構の分化と局在について研究した.PETを用いた研究で,エピソード記憶の保持過程と予定記憶に関わる神経基盤を明らかにし,臨床例の検討から,人名の学習と想起,意味記憶からの名詞の想起に関連する部位を示した. 飯島は,「海馬-嗅内皮質系神経回路の光学的計測による解析」について研究し,ラット嗅内皮質に興奮性神経細胞の閉回路(反響回路)が存在することを明らかにした.また,嗅周囲皮質から嗅内野を介して海馬に感覚情報が伝達される際に,扁桃体からの(感覚入力との)連合性入力が制御的機能を有する結果を得た. 理論面では,合原は,「コインシデンスディテクタ系の非線形ダイナミクス」について研究した.皮質ニューロンが従来想定されているようなインテグレータではなくコインシデンス・ディテクタであると仮定した時に,時間パターン入力がプログラムの役割をはたすことにより同一のネットワークの機能を変えることが可能となること,ニューロン集団の空間平均発火率と各ニューロンの時間平均発火率がほぼ等しいPSTH特性を有する非線形現象が存在すること,さらには,ニューロンへのパケット信号入力と出力パルスの相関を最大にする最適な興奮性ノイズレベルの存在およびそのような状況で出力スパイク列が高いCv値を有することを明らかにした. 藤井は,「動的細胞集成体仮説の理論的・実験的検証」に関して,動的セル・アセンブリー仮説の提唱,バインディング機構に関する理論的考察,ユニタリー事象(Poisson時系列中に埋め込まれる内的な認知過程に伴うシンクロニー細胞グループ)の動力学的な観点からの検証,およびJoint PSTHの統計的検証と規格化にかんする新しい理論式の導出などについて研究した. 篠本は,「インパルス結合ネットワークの情報伝達機構の解明」,特に大脳皮質の神経スパイク統計についての研究を行なった.皮質神経細胞の発生するスパイク時系列の統計性が標準的なスパイク発生モデルと矛盾することを明らかにし,さらにその矛盾を解決するためのモデル修正指針を示した.
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